【2026年11月ニュースレター】晩秋の経営点検「カスハラ義務化・人手不足倒産240件・熊本の課題解決ファンド|“人”をめぐる3つの論点」
BRIEF.
Vol. 9 | 2026年11月号
今月のトピック
晩秋の経営点検、
「人」を守り、補い、育てる
3つの視点
カスハラ対策の義務化、人手不足倒産の過去最多更新、そして熊本で動き出した官民ファンド。人をめぐる経営環境が大きく変わるなか、年末までに押さえておきたい論点をお届けします。
カスハラ対策、10月から全企業の義務に——「従業員を守る会社」が選ばれる時代
2026年10月1日、カスタマーハラスメント対策が規模を問わず全事業主の義務になった。求められる3つの措置と、採用力・定着率につなげる考え方を整理します。

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「お客様は神様」——この言葉は日本の接客を支えてきた。その一方で、理不尽な要求や暴言に従業員が一人で耐える構図も生んできた。2026年10月1日、改正労働施策総合推進法の施行により、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策が企業規模を問わずすべての事業主の義務となった。パワハラ・セクハラに続く「第3の義務化」である。
何が「義務」になったのか
厚生労働省の「カスタマーハラスメント防止指針」は、事業主が講ずべき措置として、①方針の明確化と社内外への周知、②相談に対応する体制の整備、③発生時の迅速かつ適切な対応——を求めている。相談したことを理由に従業員を不利益に扱うことも禁じられた。対策を怠れば、安全配慮義務違反として従業員から損害賠償を求められるおそれもある。
厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度)によれば、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為について相談があった企業は27.9%。労働者の10.8%が実際に被害を経験している。
中小企業こそ「線引き」を言葉にする
専任の部署を置けない中小企業では、現場の判断が属人的になりがちだ。まずは「どこからがカスハラか」「その場で誰が対応を引き継ぐか」「記録をどう残すか」を1枚の方針にまとめ、店頭やWebサイトで公表することから始めたい。線引きを示しても、大多数の良識ある顧客との関係は損なわれない。むしろ信頼が高まる。
「守る姿勢」は採用力になる
人手不足が続くなか、求職者は給与だけでなく「安心して働けるか」を厳しく見ている。カスハラ対策は法令対応のコストではない。従業員に「この会社は自分を守ってくれる」と伝えるメッセージだ。義務化を機に自社の顧客対応ルールを点検し、人が辞めない職場づくりへの投資と捉え直したい。
01
人手不足倒産、上半期で過去最多の240件——「省人化」に踏み出せるかが分かれ目
人が集まらず、賃上げにも耐えられない。人手不足倒産が過去最多を更新した。生成AIの活用格差のデータから、中小企業が打てる省人化の一手を考えます。

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東京商工リサーチが10月5日に発表した2026年度上半期(4〜9月)の「人手不足」倒産は240件。前年同期比17.0%増で、上半期としては2013年以降で最多を更新し、5年連続の増加となった。注目すべきは、その中身の変化だ。
「人がいない」から「人を雇い続けられない」へ
240件のうち、人件費高騰による倒産が130件と前年同期の1.7倍に急増し、全体の54.1%を占めた。求人難や従業員の退職による倒産に加え、賃上げに収益が追いつかない“賃上げ疲れ”が企業の体力を奪っている。資本金1,000万円未満の企業が159件と約3分の2を占め、業種別ではサービス業他(91件)と建設業(55件)で6割を超えた。
東京商工リサーチ(2026年10月5日発表)によれば、人件費高騰型の人手不足倒産は130件(前年同期比75.6%増)。形態別では破産が229件と95.4%を占め、再建の余地が残らないケースが大半だ。
生成AIの活用にも「規模の壁」
人に頼らず業務を回す手段として期待される生成AIだが、帝国データバンクの調査(2026年3月)で活用している企業は34.5%。大企業の46.5%に対し、中小企業は32.4%、小規模企業は28.0%と、規模が小さいほど低い。一方で活用企業の86.7%が効果を実感しており、「大いに効果が出ている」の割合は小規模企業(29.7%)が大企業(20.8%)を上回った。少人数の会社ほど、1人分の業務削減のインパクトが大きいのだ。
小さく始めて「1人分」を取り戻す
文章の作成・要約、情報収集、見積書や日報の定型化。まずは毎日発生する事務作業を生成AIに任せ、浮いた時間を顧客対応や付加価値の高い業務に振り向けたい。人手不足を「採用の問題」としてだけ捉える会社と、「業務設計の問題」として捉え直す会社。その差は、来年の決算に表れ始めるはずだ。
02
熊本の「困りごと」に投資する——くまもと課題解決ファンド始動と創業支援の新段階
交通渋滞、地下水保全、人手不足——熊本ならではの課題を事業機会に変える官民ファンドが誕生した。創業から成長までをつなぐ、地元の支援網の現在地を読み解きます。

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10月16日、熊本市はスタートアップの資金調達を官民で後押しする「くまもと課題解決ファンド」の設立を発表した。運用は福岡市の投資会社ドーガンが担い、肥後銀行、熊本銀行、九州産業交通ホールディングスなど県内の金融機関・企業14社が出資する。運用期間は10年。年内に1社目への投資を始め、県内外の計20社を支援する計画だ。
「地域課題」を投資テーマに据える
このファンドの特徴は、投資テーマを熊本の具体的な課題に置いている点にある。慢性的な交通渋滞の解消、暮らしを支える地下水の保全、人手不足を補うDXや省人化、防災・復旧サービス。出資者にはバス会社なども名を連ね、熊本市や出資企業の協力を得て大規模な実証実験ができる。市は出資せず、行政として信頼を担保する役割を担う。
ドーガンの発表(2026年10月16日)によれば、ファンド規模は現時点で約10億円。2027年5月末まで追加の出資者を募り、最大20億円を目指す。熊本域内のアトツギベンチャーも投資対象に含む。
創業前から成長期まで、支援がつながる
支援の裾野も広がっている。創業・開業支援プラットフォーム「スタートアップ ハブ くまもと(スタハブくまもと)」は11月2日から、開業前の事業計画策定・資金調達のサポートと、開業後の伴走支援を新たに始めた。2022年度からの4年間で890件の新規事業創出を支援し、運営会社の「くまもと創業開業応援ファンド」は9月末時点で125先に約2億8,000万円を出資している。
地場企業にとっての意味
課題解決型ファンドの登場は、スタートアップだけの話ではない。自社の課題を実証の場として提供する、技術を持つ新興企業と協業する、事業承継を機に新規事業へ挑む——地場企業の関わり方は多い。「熊本の困りごと」を最もよく知るのは、この地で商売を続けてきた企業自身だ。その知見を資金とアイデアにつなぐ回路が、いま開き始めている。
03
事業は人なり。
— 松下幸之助(パナソニック創業者)
① カスハラ対策の義務化
- 厚生労働省 — 職場におけるハラスメントの防止のために
- 厚生労働省 Webマガジン — 従業員を守るために ― カスタマーハラスメント対策の新ルール
- 厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」
② 人手不足倒産・生成AI活用
③ 熊本のスタートアップ支援
